王様の背中

週末は春の早い匂いがするように、小春日和になる。
思わぬことに、先日おまけに作った「ほんの手帖」50号が
ディリースムース2で紹介していただき、リンクの数がうわっと
増えて知り、びっくりするやらうれしいことである。元町の黒木
書店の思い出話は、かなりあり林哲夫さんにおだてられたのも
あり、思いだすままエピソードを出してみようかなと思った。
黒木書店の中にあるガラスケースには豪華本が飾られているが、
とても手が出ないというか、こんな値付けして売れるんだろうか
と思うような高価なのがあった。内田百輭の本が面陳され箱と
並んであったのがすごい値段だった百万かそれ以上の極美の初版
の特装本の「王様の背中」だ。今も手に入らないていうか入れられ
ない。百輭の本の値を決めたのは黒木書店とも言われてたらしい
すごいねーしかし当時は、そんなことは知らず内田百輭の名と本
ぐらいは知ってた。
多分、機嫌が良かったんだろう黒木さんがガラスケースの鍵を開け
て、その本を出して手に持たせて見せてくれたことがある。買える
訳が無いのをわかって、その百万のきれいな本を恐る恐る手に持ち
ページを繰って見たが内容は覚えていない。戻したあとに、私が
「こんな高い本売れるんですか?」と聞くと黒木さんが「売るため
に売ってるんじゃない」と言われた。それがおかしくて、いつまで
も覚えている。おそらく、黒木さんの意地のようなものだったろう。
本を売りに来る知らない客を、あんたが要らない本はウチも要らんのや
と断るとも話していたな。人の好き嫌いの激しいとこがあり二度と
行かないという人も居ただろう。冷やかしお断りの小さな紙を本棚に
貼っていたり、随分横柄なと思う人も多かったのじゃ無いかいな。
そんな古本屋の頑固おやじは、今は知っている限りもう居ない。
幸い、気に入っていただけたらしく怒られたことは無い。手ぶらで
帰ったことも無く、何か一冊でも本を買って帰るようにしていた。
なんせ、冷やかしお断りだから。